うずら

この想い 胸に秘め
歩いていくぜ 男一匹 うずら道

きれいな人だと思った
はじめてみた時、目に焼きついた

む、今だ
うずらは闘志を胸に秘めて脱兎のごとく駆け出した
想いのあの人は物憂げにさくらの木なぞを見て、涙を溜めている
さくらなぞみずに俺を見るがいい!!
うずらの心はわくわくのどっきんどっきんであった
「ここにおすわりになってもよろしいですかな?」
緊張はしていないと勝手に想っているものの、
体は正直に緊張を表す。
言語がちょっとぴよっぴーなうずらであった。
「・・・・?誰?」
「ヘイハニー、足元を見るんだ、
君のうずらがココに居るじゃあないか」
「きゃあっ」
なんたることだろう、想いのあの人は驚きのあまり
(うずらしゃべった)
うずらを踏んづけてしまった
「ぎょえ」
トマトケチャップが溢れ出すような音を立てるうずら
「ご、ごめんなさい、大丈夫!?」
慌てて飛びのく想いの人
ああその白い手がうずらをさわり、持ち上げる
「お父さん、お母さん、うずらは今良しの状態だぜ」
「大変だわ、言語がぴょろっぴーだわ」
「想いの人よ、心配めさるな、うずらはこう見えてもそんじょそこらのうずらではないー!!」
「不思議ねェ、どうなってんのかしら、この体」
「きゃーえっちー」
うずらをとってかえしたり半回転させたり、
色々弄くってしまう想いの人
時に人は鬼よりも残酷なのだ
「エッチーって、いつも裸なのに、やっぱり恥ずかしいの?」
「想いの人よ、情けがあるのなら、わかってくれないか、
うずらだって恥ずかしいという気持ちはあるのだ」
「そうなの、あたし、失礼なことをしたわね、ごめんなさい」
「いいのだ、君になら何をされても星屑さ」
ありったけの☆を目に込めて想いの人を見上げるうずら
想わず笑ってしまいそうになってしまった想いの人
「ソウ言えば名前もまだ聞いてなかったね、なんていうんだい」
「レディにそんなことを聞くもんじゃないわ」
ショーック!!うずらショーック。
「嘘よ、そんながびーんて顔しないで」
ああ、想いの人よ、君は知るまい、
うずらがどんなに君を想っているのか
さらさらの絹のような黒髪が、淡い色の光を受けて
彼女が笑うたびに波のようにうねるのです。
うずらはきゅーんとどきがむねむねしました。
(女というのは残酷なものです)
ちょっと泣きそうなうずら。
ひとしきり彼女は笑った後、こういいました。
「あたしの名前はアンズ、杏よ」
「きれいな名前だ」
深く納得するうずら。何を納得しているのか。
「あなたの名前は?」
「孤に生きるうずらさ、だからうずらにはうずらという名前しかない。」
「うずらというの・・・そう」
微笑んで彼女は首をかしげた。
花のようだ、とうずらは想った。
「杏さん」
突如、彼女の名前を呼ばれた。
うずらはびっくりして降りかえった拍子に彼女の手から転げ落ちた。
「ぎゃふん」
「杏サン・・・ここに居たんだね」
「・・・・ちょっと!踏んじゃいやよ!!」
「わっなんだいこれは」
「うずらさんっていうのよ」
「そんな小汚いものを触らないでくれ、杏サン」
「小汚いだと!?」
うずらは憤怒に立ち上がった。
「この磨きあがったくちばしが見えぬのかっ」
「杏サン、帰るよ、明日は祝言だ。
本当なら君は今日だって家に居なきゃならなかったんだよ」
「離してっ良夫さん、
あたしまだ貴方の妻じゃないわ」
「ソウとも、その小汚い手を離せっ」
「杏サン、わがままを言うな、
君はどれほど僕を困らせたら気がすむんだ」
「ばかっ離してよ」
「ばかっ離してよ(うずら)」
ため息をついて男は彼女の手から自分の手を離した。
その瞳みはとても悲しそうな光を放っていた。
「杏サン、いいね、明日は祝言だ。
わがままを言わずに僕の奥さんになってもらうよ」
「奥さんだと!!」
うずらは思わず羽ばたきそうになった。
「何を言うにもほどがある!!
杏の奥さんになるのはこの私だ!!」
「いいね、杏さん、かならずだよ」
男は最後にうずらを蹴っ飛ばしてから、去っていった。
衝撃にうずらは男の背中を見つめるばかりだった。
杏も、悲しげな瞳で、男の背中を追う・・・・。

杏!俺と逃げるんだ!逃げなければいけぬのだ!!
うずらがそう言ったのは男が全て消えてからのことだった。
杏はためらいながら(というよりもぜんぜん相手にせず)うずらを手に持った。
だめよ、あたしが彼の奥さんにならなければ、
パパが大変なことになるの。
父親の為に自分の珍生を犠牲にする気か!?
パパだけじゃないわ・・・あの人が臍を曲げて、
取引がおじゃんになったら会社の人たち、全てが路頭に迷うわ。
杏!
うずらさん、ごめんなさい、ありがとう
杏は少し、笑ってうずらを地面に置いた
悲しさが漂っていた
「君はなぜ泣かないのだ」
「なぜ?悲しいことなんてなにもないわ」
「杏!」
「ごめんなさい」
杏は振り返らずに去っていった。
うずらは悲しげにその姿を見つづけた。
そして杏が3m行った所で後をつけ始めた。

~祝言の夜~
気が重い・・鉛のように体がだるい。
良夫はため息をついて賑わう部屋から抜け出した。
叔父あたりがそのうち気がついて、騒ぎ始めるだろう。
だけど今は一人で居たかった。
横に居た杏は始終黙ったまま、無表情に式をこなしていった。
「どうしてこんなことに」
思わずつぶやく良夫。
こんなはずではなかった。
杏の会社が危ないと聞いて、助けようと思ったのはただ杏のことを案じたからだ。
杏を無理やり、嫁に取りたいとか、そんなこと思ってなかった。
だけど話は大きくなってなぜか、こうなってしまった。
「きっと俺が悪いんだろう」
暗く笑って良夫は、月夜の廊下を歩いた。
「若」
突然、背後から声をかけられる。
「なんだ、後藤か」
まったく動ぜず良夫は答えた。
若社長となってから、俺もずいぶんずぶとくなったもんだ。
「めでたい席ゆえ、ためらわれていたのですが・・・・、
実は、昨日ナニモのかがこの屋敷に忍び込みまして・・・」
「なんだと!?」
良夫が振り返る。
冷淡な後藤のごつい顔がまじかに迫る。
「それがうずらでして・・・」
「うずら・・・」
「ものをしゃべるんです」
どうしましょう。後藤が言った。
うずら、ともう一度良夫が繰り返した。

うずらは地下牢に幽閉されていた。
地下牢があるなんて、やはりこんなところに杏をお嫁にはやれぬ。
とうずらは思った。
しかしひもじい。勇敢なうずらなれど、昨夜からずっとなにも食べていない。
ここは牢人に対するいたわりができてない。
ぷりぷりとうずらは怒った。
「おいでろ」
がちゃりと牢の扉が開いて、良夫が顔を出した。
「おまえはにっくき良夫!!ここであったが100年メー!!とー!!」
おそいかかるうずら!!!
ハエタタキでびしっと打ち落とす良夫。
「これは俺の友達だ。今度から閉じ込めずに俺のところまで通せ」
「はっ」
良夫が命じると、後藤は頭を下げて従う意を示した。

ほーほーとふくろうがなく。
もしかしたらはとかも知れないけど。
うずらはなぜ、俺が今、こいつと話しているんだ、と理不尽なものを感じていた。
「そうか・・・、杏さんを連れ出しにきたのか」
「おまえには杏はやれぬ。杏は俺のものなのだ。
そして杏は俺に惚れるのだ」
「あっはっは」
かんらかんらと 良夫は笑った。
「おもしろいやつだな」
「何がおもしろい、俺はおまえなぞちっともおもしろくないぞ」
「いいさ、連れて行け」
「なんだと」
「杏サンは俺と居ると不幸なようだ、さっさと連れて行け。
これぐらいで取引を止めるような俺じゃない、後は安心しろ」
「・・・・」
うずらはじっと男を見た。
男は月を見上げながら、じっと押し黙っていた。
その横顔が鋭利にとがっていて、うずらはなにかを思った。

「杏!助けに来たぞ!!」
ぐでんぐでんに酔っ払った人々は母が世話をしている。
杏は場の盛り上がりに熱を持った頭を冷やそうと、廊下に一人で居た。
「きゃっうずらさんっ!?」
「さぁ、いこう、俺達の明日は明るいぜ」
「うずらさん・・・・」
杏は静かに首を振った。
「なぜだ!杏!なぜ俺の心を裏切る!」
「ごめんなさい、うずらさん・・・、あたしは」
「あいつは君が奥さんにならなくっても取引をやめないと誓ったぞ」
「え・・・・」
衝撃が走ったように、杏は表情をこわばらせた。
「君は道具にならなくっていいんだ、君が決めるんだ、今宵、どうするのか」
「う・うずらさん」
「さぁ走れ!杏!!」
うずらは無理やり杏の手を取って走り出した。
うずらの小ささは気にしないように。
杏は花嫁衣裳のまま、走り出す。
「うずらさん・・・待って・・・!!!」
「決めたのか、今宵どうするのか・・・!
君は何がしたいんだ!!」
「あたし・・あたしは・・・」
ふいに扉が目前に来た。
目の前に良夫が居た。暗い目をして、杏とうずらを見る。
「杏さん・・・幸せになってくれよな」
良夫が扉を開けて、道を開ける。
「良夫!うずらはうずららしく生きているのだ!!!
なぜおまえはおまえらしく生きない!?」
ぎくりと良夫がこわばった。
「・・・うずら」
「違うだろう!!違うことを言わねばならないだろう!!」
「・・良夫さん、どういうことなの・・・」
「・・・・・・・・・杏サン・・・」
「いえっ言わねば俺が言う!!」
「やめろっ」
「なぜ一言が言えない」
「うるさい、だまれ」
「おまえはシャイなのか」
「好きだなんて言えるかっ」
良夫の怒鳴り声が響いた。しん、と周りに風が吹く。
自分の言った言葉に良夫は真赤になった。
遅咲きのさくらが、舞っている。
「杏、君が決めるんだ」
「あたし・・・あたしは・・・」
杏がゆらりとよろめいた。
うずらはそれを見ていた。
杏が良夫に倒れこむ。
「あたし・・・あたしは・・・」
良夫が驚いたように彼女を抱きしめる。
うずらは言った。
「幸せに、おふたりさん(ダンディ)」
杏の頬に涙が流れた。

次ぎの日・・・・。
「うずらさん」
さすらっていたうずらに誰かが声をかけた。
自分で結んだ縁とはいえ、やはり失恋は悲しかった。
「おお、君は杏」
「ふふ、元気なさそう」
(女とは残酷な物よ)
「そんなことない、君こそ元気か?」
「うん・・・良夫さん、優しいわ・・・」
「・・・」
しばらく無言で歩いた。
初夏に入りかけた木々の、若々しい匂い。
香り立つ道であった。
「あたし、しあわせになるわ」
不意に杏が言った。
「だから、うずらさんもしあわせになってね」
うずらは無言で杏を見た。
そして重々しく頷いた。
「あのね、裸じゃ、寒いでしょ・・・?」
そしてズボンをごそごそ探って、
ポケットの中にあった茶色いくちゃくちゃの紙袋を差し出した。
「これに入れば少しはあったかいはずよ」
「おお」
感動のあまり震えるうずら。
(女はまったくマリア様です)
マリア様なんて言葉、どこで知ったのか。
「ありがとう」
もぞもぞと紙袋に入れば、彼女が食べたのであろう
アンパンと牛乳のほのかなにおい。
ああ、あまずっぱい青春よ。
うずらは紙袋の中で、がさがさと言った。
「暖かい、これはいい」
「・・・それじゃ、あたし、行くね」
「うむ」
紙袋からちょっと顔を出して、厳粛に頷くうずら。
杏は一度手を振ると、たっと駆け出した。
振り返らずに・・・・。
うずらは紙袋にもう一度戻って、声を殺して泣いた。
うずら一才、青春であった。