夢のウサギ

小さな池に兎を飼っていたのです
その兎は金色の目をして白い鱗を持っていたのです
「つきがかかっている」
その日も鱗を撫でながら私は兎に話していたのです
兎は何も喋らなかったけれど、私にはたった1つの救いでした
「あのつきが
きみのこきょうだというひともいる」
縄跳びをそっと握ってぴょんと飛びました
青い縄跳びは透明に、澄んで澄んで見えないぐらいでした
冷たい縄の音がしぱんと、地を打ったのです
うさぎは池の岩の上からただ私を見ていました
その目はまるで月のようでした
瞳の中にまあるく映った私と月が縄跳びをしていました
しぱんしぱんと乾いた音で私は地を弄ったのです
音が鳴るたびにコケいろの池が小波を立てたのです
「いつかきみもいってしまうのだね」
兎はただ悲しそうに白い鱗を揺らすだけでした
平坦な何処までも平坦な灰色の地に
私は兎と池と月以外を知りませんでした
兎は半身を池に預けながら寒い風が吹くたびに金の目を細めていました
私は私が兎を傷つける存在であればいいと願いました
けっして喋らなかったけれど、私には兎の声が聞こえました
とても傷ついているのでどうかこれ以上傷つかないで、と願いました
私はつとめて明るく笑ったのです
「きみがきみをすきじゃないのはしってるさ」
なるべく明るくその声が、兎の耳に届けば良いと願いました
ねぇ、私は一つも傷ついていない
ねぇ、だからお願いだから、傷つかないで、傷つかないで
願うにせよ願わないにせよ、私が私でいるだけで傷つく人を私は知っていました
それは先週までは確かに兎だったのです
兎は「ぴくん」と言いました
そのまま身を翻してぼちゃんと池に帰っていったのです
その波の音があまりにも痛みをはらんでいたので縄跳びを止め
ただ私は泣きました
涙の一粒一粒に兎に似た月が映って消えました
兎が傷ついている、と私は痛みを覚えました
私が傷ついている、と兎は痛みを訴えました
誰があなたの尖った氷になりたいのでしょうか
涙は本当は優しいのにあまりにあなたを鞭打つのです
だから私は涙を捨てました
いかないで、と涙は言いました、でも本当は私が言ったのかも知れません
望むにせよ望まないにせよそれ以来私は涙を忘れました